谷崎潤一郎の筆致が切り拓く耽美の風景
覚海上人天狗になる事書棚に息づく非日常への誘い
覚海上人天狗になる事は海の記憶と神話を結ぶ異色長編。崖と波と祈りの狭間で人は自らの欲望と倫理を問われ、幻想と現実の境界を越える旅へ誘われる。谷崎潤一郎の筆致が鮮烈に甦る一冊。魂と記憶を揺さぶる不意の変容を案内する。
レビュー
海と仏教と天狗という異色のモチーフが、谷崎の筆致で静かに結ばれる。覚海上人が天狗になる過程は幻想と現実の境界を揺らし、言葉の響きが心の孤独を掘り下げる。読み進むうちに日本的美学と自意識の渦に引き込まれ、深い余韻が残る一冊だった。短い語りのなかに、日本的な影絵のような情景描写が散りばめられ、読むほど世界が深く沈潜していく。 (34歳 風灯)
谷崎の新境地かと思いきや、覚海上人が天狗になるプロセスは実に人間くさい。鼻は伸びてもプライドは短く、古典美と自虐が混ざる。場面のオマージュに現代のSNS風距離感を感じつつ、静謐な美意識は崩れない。天狗の修行でこける場面は思いのほか可笑しく、腹筋が痛くなるほど笑える。読後には温かな哀感と余韻が残る。 (29歳 ぴよ子)
読書初心者にも入りやすい口調で進むので安心して読める。難解な語彙を避けつつ、覚海上人が天狗になる意味を丁寧に解きほぐしてくれる。自己探求と他者理解の旅を、身近な感情で追体験できる構成が好印象。短い文と静かな情景が、初めての読書にも優しく寄り添う一冊です。 (20歳 ひよっこ)